『神を生み出す脳 ―「宗教認知科学」入門―』

読了。人間の認知機能が備えているある種のエラーやバグが、見えざるものを見えるように仕立てていく。議論としては、場所や空間に対する認知の項目が面白かった。
熊野古道、西国三十三所、あるいは町ごとの七福神めぐりなどのことであって、複数のポ イントを時間をかけて回るものとなっている。日常的な言い方をすればスタンプラリーだ。 とりわけ有名な巡礼路として、サンティアゴ・デ・コンポステラが挙げられる。これは スペイン北西部にあるキリスト教の聖地で、イスラム教徒と戦う人々の前に聖ヤコブが現れ勝利に導いた地といわれがあるにせよ、年間五十万人に及ぶ巡礼者が求めている のは目的地よりも、むしろその道自体だという。同地に交通機関で行くことも可能だが、 多くの人はそうせず、フランス国境付近から一ヶ月以上かけての徒歩か、あるいは十日ほ どの自転車巡礼を選ぶ。 そうした人々にとって有意義なのはゴールより得られる過程であり、多くの体験談が、旅の途 中でさまざまな人に出会い、触れ合ったことで得られた精神的な成長について語っている。 そうしてようやく目的地に着くと、さっさと帰ってしまうという。p.244
場所・空間に対する推しというものがあるとするならそれはそこに単に行くことを超えて、その経路全体に価値や意味があるということ。空間に紐づいた時間を得るということ。これは空間の体験性でもよく言われる話だと思う。経路というのはある種の時間を強制的に確保する仕掛けである。
あと、空間の話とは別に最小反直観という概念も面白かった。
幽霊の特徴を考えてみると、それは動物に分類され、心性と生物性はそのままだが、物質性は通常の動物とは異なっており、突然現れたり壁を通り抜けたりする。また生命性については、食べ物は不要と考えられている。つまり、動いているし、そもそも生きているとはいえない。つまり、動物の特徴のうち、物質性と生命性が普通とは異なっているという。 このように、あるカテゴリーから導かれる直観的期待から少し逸脱しているという特徴を、ボイヤーは最小反直観的と呼んだ。この他にも、表の内容を少し変えることで、「会話できる木」「勝手に動く冷蔵庫」など最小反直観的な概念をいくつか作ることができる。 その上でボイヤーは、最小反直観的なものは意外性があり、人々の注目をひくと記憶に残りやすいと考えた。
自分たちが動物・植物・道具に対して物質・生命・心として直観的に期待する内容がまずあり、その期待を小さく裏切るような形になると人の記憶や違和感を強烈に刺激するということ。
ここで大きく裏切ってしまうと、別用のものとして認知してしまうので、あくまでもこの裏切りは最小であればあるほど現実との地続きとなり、リアリティがますというのも捉え方として面白い。