山田登世子『ブランドの条件』について

『ブランドの条件』著:山田登世子,岩波書店,2006
ブランドの条件/山田 登世子|岩波新書 - 岩波書店iwanami.co.jp ↗
読了。印象的だったのは、ブランドが単なるマーケティングの結果ではなく、「起源」や「超越性」と深く結びついた文化的構造として描かれている点だ。ブランドは“ロイヤル”から始まる──つまり、その名が王侯貴族に由来することで、起こりの物語に神話的な光が宿る。ルイ・ヴィトンが王室に愛されたことも、まさにブランドの“起源ゲーム”の勝利例とされる。19世紀末、万博での受賞が国策としてのラグジュアリーを支えたように、ブランドとは国家と個人の欲望が交差する装置でもあった、ということ。
また、大量生産が進む中で、ハンドクラフトという「一回生」の価値が再び強調される。職人の手仕事は、浪費ではなく“唯一性”の保証として機能し、ブランドを支える精神的支柱となる。しかし一方で、ライセンスビジネスによる拡散は、その希少性を溶かし、ブランドの自壊を招く。ここには、資本主義の論理とラグジュアリティの矛盾が浮かび上がる。
さらに本書が鋭いのは、ラグジュアリーの裏面──帝国主義的、植民地主義的な視線──を指摘している点だ。高級ホテルから“他者”を一方向に眺める行為そのものが、支配と奪取の構図を再演している。ブランドは常に「名前」を通じて神話化されるが、その名が他者の文化を包摂する暴力にもなりうる。本書は、消費者的欲望から距離をとり、ブランドを“提供する側”から読み解くもので、そのアプローチは参考になる。