マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』

amazon.co.jp資本主義リアリズム | マーク フィッシャー, セバスチャン ブロイ, 河南 瑠莉 |本 | 通販 | Amazon

未来を考えることは、現在とは異なる社会の姿を想像することでもある。しかし、現在の私たちは、技術や生活様式の変化を思い描くことはできても、資本主義とは異なる社会の仕組みを具体的に想像することが難しくなっている。

マーク・フィッシャーが「資本主義リアリズム」と呼ぶのは、資本主義が単に世界を支配している状態ではない。それ以外の政治的・経済的な仕組みは現実的ではないという感覚が、社会の隅々にまで浸透した状態である。本書は映画や音楽、小説、教育、労働といった身近な領域から、この感覚がどのように形成されているのかを読み解いていく。そこでは、社会的な矛盾や不調さも、個人の能力や精神状態の問題として処理されやすい。働き方や制度そのものを問い直す代わりに、個人が環境へ適応することを求められる。問題が存在していることは理解されていても、それを変えられるとは誰も本気で信じていない。この諦めを含んだ現実感こそが、資本主義リアリズムを維持している。

本書が扱っているのは、経済制度としての資本主義だけではない。そこから別の場所へ向かう想像力が失われ、未来が現在の延長としてしか描けなくなった状態である。未来を取り戻すために必要なのは、完成された代替案をすぐに提示することではない。いま現実的だとされているものが、本当に唯一の現実なのかを疑うことから始まる。本書は、閉じられた未来に小さな亀裂を入れるための一冊だと思う。