アンソニー・ダン,フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン』


スペキュラティヴ・デザインbnn.co.jp ↗
デザインは一般に、何らかの問題を解決するための行為として理解されている。使いにくいものを使いやすくし、複雑な情報を整理し、商品やサービスをより魅力的なものにする。しかし、アンソニー・ダンとフィオナ・レイビーは、デザインを問題解決だけに限定しない。『スペキュラティヴ・デザイン』において、デザインは製品を実用化するための手段ではなく、社会に問いを投げかけ、別の可能性について考えるための道具として位置づけられる。
そこで制作される架空の製品やサービスは、すぐに市場へ投入することを目的としていない。それらは「この技術が普及したら、生活はどう変わるのか」「異なる価値観をもつ社会では、何が必要とされるのか」といった問いを、具体的な形として提示する。形を与えることによって、まだ存在しない未来について議論できるようになる。抽象的な言葉だけでは捉えにくい倫理的・政治的な問題も、目の前にあるモノや場面として示されることで、自分自身に関わる問題として感じられる。
ここで重要なのは、未来を正確に予測することではない。望ましい未来だけでなく、望ましくない未来や、実現していたかもしれない別の未来まで含めて、想像できる範囲を広げることである。ダンとレイビーは「もしも」という問いを通じて、どのような未来を選び、どのような未来を避けるのかについての議論を促している。デザインは、すでに決められた目的へ向かって答えをつくるだけではない。目的や前提そのものを疑い、まだ共有されていない問いを可視化することもできる。本書は、デザインを未来について考えるための思考実験として捉え直す一冊である。